セレッソ大阪チームドクターとして(平成12年卒 洲鎌 亮)

大阪市立大・セレッソ大阪連携協定調印式にて左から順に、宮本功代表理事、玉田稔代表取締役社長、荒川哲男学長、井上徹副学長、中村博亮整形外科教授(2017年8月26日)

大阪市立大・セレッソ大阪連携協定調印式にて
左から順に、宮本功代表理事、玉田稔代表取締役社長、
荒川哲男学長、井上徹副学長、中村博亮整形外科教授(2017年8月26日)

大阪市立大学は、‘プロサッカーチーム セレッソ大阪’とフレンドシップ協定を締結しています。その中心的な活動が、セレッソ大阪のチームドクター活動です。我々、整形外科医師は、このセレッソ大阪チームドクターの中心的役割を担っております。

プロサッカーチームのチームドクターとは何をするのでしょう?

‘試合中、ベンチで座って、けが人が出たら、走っていく’、これが一般的に考えられるチームドクター像ですよね?! 

‘正解です!!’

でも、これだけではありません。チームドクターの仕事は、多岐にわたるのです。

まず、すべての公式戦および親善試合のベンチに入ります。公式戦だけで、1年間に、J1リーグ戦34試合、カップ戦最大13試合、天皇杯最大6試合、J3リーグ戦34試合と計87試合あります。このすべての試合のベンチドクターが必要です。次に、すべてのホームゲームの会場ドクターが必要です。大まかですが、公式戦・親善試合の半分、45試合程度です。それに加え、チームキャンプへの帯同(2018年シーズンは、宮崎、タイ、沖縄と3回ありました)、週に2回の舞洲クラブハウスでの選手のチェックと決まった仕事だけでも莫大な量となります。前シーズンのタイトルホルダーという事で、2018年シーズンには、アジアチャンピオンズリーズでの海外チームとの試合があり、それもホーム・アウェーと帯同がありました。チャンピオンチームのみが出場できるチャンピオンシップも2試合余分にありました。

毎年のメディカルチェックも大事な仕事です。Jリーグが定める規定の項目をチェックして、リーグに届ける必要があります。選手の移籍の際も同様です。必要項目に加え、今までの怪我の既往を把握し、現在の障害について評価し、サッカー選手として問題ないか判断する必要があります。これが終わらないと、移籍の契約が完了しません。責任重大な仕事です。でも、2014年に来日したディエゴ・フォルランのサインを一番にもらえたのは、僕のはず!。こんなメリットもあります。

各種予防接種への対応も、プロの集団を管理する上で、非常に大切な業務です。当然、傷害・障害の発生に対しては、その都度、対応する必要があります。やっぱりこれが最も大変です。診察や検査をなるべく早く行い、治療方針を立てます。これには当然、手術も含まれます。また、新聞やネットで見たことがあると思うのですが、全治○○週など、プレスリリースへの対応も必要となります。トップチームでもこれだけあるのに、ユース、ジュニアユース、レディース、ガールズと活動範囲は多岐にわたります。

さらには、日本代表が大阪で試合やキャンプを行う際のサポート、ワールドカップ、クラブワールドカップなどが大阪で開催される際のメディカルサポートなども含まれます。現在は、Jリーグに20名のチームドクターを登録しており、それ以外の大阪市立大学整形外科同門の先生および他の診療科の先生のご協力を得ながら、サポート体制を整えています。

さて、これだけの仕事を並べられると、チームドクターに興味はあるのに、手を上げにくい・・・、という意見が出てきますよね。またチームドクターはしたいが、整形外科医師として働く上での専門とするには、まだやっていく自信がない・・・、という先生・学生は多いと思います。これは、‘間違い’です。何を隠そう、現在チーフを務めている私は、大阪市立大学整形外科の関連病院で最も忙しいとされる大阪市立大学附属病院でスタッフとして勤務しています。妻も共働きです。子供も4人います。こんな状態でもなんとかチーフをやってこれています。もちろん、多くの先生方のサポートを得ながらです。

さらに私の臨床の専門は、下肢関節外科です。整形外科医の中でも、スポーツ専門しかチームドクターを務めることはできない、という事はないのです。つまり、チームドクターをしながら、整形外科の各専門分野を勉強することができます。現に、現在登録している20名には、スポーツ整形、下肢関節外科、脊椎外科、手の外科、腫瘍整形、肩関節外科の各専門家が含まれており、また整形外科開業医の先生もいます。チームドクターをしながら、自分の専門分野を極めることができるのが、私共、大阪市立大学整形外科の特徴ともいえます。

さて、ここで、今までのチーフの紹介をさせてください。1988年ごろから30年来、セレッソ大阪のチームドクターを務めてきた中で、チーフというポジションは、やはり特別です。常にドクター陣をまとめ、チームとのやり取りを継続してきました。今は、私が務めさせていただいてはいますが、過去の先生方のおかげで、しっかりとした体制ができています。

セレッソ大阪チーフドクターの系譜

  • 初代:北野公造:前大阪府済生会中津病院総長、現大阪府済生会中津病院顧問
    現大阪市立大学整形外科同門会長
  • 二代目:杉本武:前U-20日本代表世話人ドクター
  • 三代目:小松猛:びわこ成蹊スポーツ大学スポーツ学部スポーツ学科教授
  • 四代目:洲鎌亮:大阪市立大学整形外科病院講師

初代:北野公造 四代目:洲鎌亮二代目:杉本武 三代目:小松猛

セレッソ大阪は、1995年のJリーグ加盟後、3度のJ2降格とJ1復帰を経験しています。そのたびに私共、チームドクターも落胆と感動を共有してきました。2017年シーズンには念願だったタイトルを2つも取ることができました。セレッソ大阪の選手・スタッフとともに勝ち取ったタイトルと感動は、何物にも代えられないものでした。
初代チーフである北野公造先生が、以前、チームドクターを目指す若手医師へのメッセージとして、以下の言葉を残してくれています。

‘サポーターをはじめとした色々な人のチームへの期待を実現するために、苦労を共にして、多忙をくぐり抜け、難問を解き、チームの一員として、多くの機会を得て目標を達成できた時の喜びを共有して下さい。施設内では経験出来ないチームドクターとしての社会的体験が、医師としてのバランスの取れた知的習熟、患者さんから良い評価をされる人格形成に役に立つと思います。’

まさにこの言葉は、私共の活動の根底にあると考えます。

現在、様々なスポーツ競技が存在し、そのメディカルサポートが必要となります。日本でのスポーツで一番メジャーなのが野球、その次がサッカーです。プロ野球には正式なチームドクターは必要ありません。これに対し、Jリーグは、正式にチームドクターを義務付けさせています。

Jリーグ規約第4章〔競技〕第 52 条〔選手の健康管理およびドクター〕

  • (1) Jクラブは、日本国医師免許を保有する専属のドクターを置き、当該Jクラブの責任において選手の健康管理を行わなければならない。
  • (3) Jクラブは、すべての試合に、ドクターを同行させ、原則としてベンチ入りさせなければならない。
  • (5) Jクラブは、試合終了後可及的すみやかに「Jリーグ傷害報告書」をJリーグに提出しなければならない。なお、選手が試合中に負傷した場合には、ドクターの所見を得、ドクターの署名あるものを提出するものとする。

通常のJリーグのクラブは、特定の医師や病院とチームドクター契約を結び、運営しています。このため、限られた医師のみがJリーグのチームドクターを務めることができます。これに対し、セレッソ大阪は、大阪市立大学自体と提携し、その一環としてメディカルサポートを受けています。そしてそのメディカルサポートの大部分を大阪市立大学整形外科教室が担っているのです。逆に言えば、大阪市立大学整形外科教室の一員なら、誰にでもセレッソ大阪のチームドクターになるチャンスがあります。ぜひ、興味のある先生・学生は見学に来てください。

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