研究

環境中化学物質の発がんリスク評価および短期包括的評価モデルの開発

ヒトは日常生活の中で様々な低用量の環境発がん性物質に暴露されながら生活しています。また、ヒト発がんの原因の多くは喫煙や医薬品・食品添加物などであることから、それら物質の安全性あるいはリスクを評価するために、発がん性あるいは毒性影響について詳細な情報が必要です。当教室ではこれまでにいくつかの新規合成あるいは天然由来の化学物質について、動物実験モデルを用いて種々のリスクを報告しています。 また、我々はより短期間でかつ包括的に発がんリスクを評価可能なモデルの開発を行なっています。

有機ヒ素化合物による膀胱がん発生機序の解明

当教室ではこれまでに有機ヒ素化合物ジメチルアルシン酸のラット膀胱への発がん性を明らかにしています。しかしながら、その詳細な機序については不明です。我々は分析化学的手法によるジメチルアルシン酸の生体内代謝物質の検索を行い種々の代謝物を同定し、その発がんへの寄与を検討しております。また、発がんに至る機序についても動物実験を元に解析を行い、活性酸素が一つの因子であることを同定してきました。今現在、エピジェネティックな変化に着目し、検討しております。

環境毒性・発がん物質の検証とその機序解明

日本国内においても、環境毒性・発がんによる被害が近年でも存在します。福井県の芳香族アミン取扱事業所における膀胱癌や、大阪府の印刷事業場における胆管癌、茨城県の地下水中から検出された有機ヒ素化合物ジフェニルアルシン酸による神経毒性事例など、その原因物質の検証およびその機序を主に動物実験モデルを用いて検討しております。

エジプトにおけるビルハルツ住血吸虫感染関連膀胱癌

エジプト地域において膀胱がん発生率が高く、扁平上皮癌が多く存在することが報告され、その発生にはビルハルツ住血吸虫感染が関わる事が知られています。我々は、住血吸虫による炎症に着目し、酸化的DNA傷害のマーカー8-OhdGやDNA修復酵素遺伝子の増加を認め、酸化的ストレスに伴う持続的な酸化的DNA傷害とそれに伴うDNA修復酵素の過剰発現などが膀胱の扁平上皮癌発生に関わる事を報告しております。

チェルノブイリ原子力発電所事故後の汚染地域の発がん性

ウクライナのチェルノブイリ原発事故後、周辺汚染地域では過去十数年間で膀胱癌の発生頻度が上昇したと報告されています。その原因として現在も土壌中に残存する低レベルCs137の長期間暴露が考えられています。我々は臨床的に膀胱がん症状のない汚染地域住民の膀胱粘膜において、上皮異形成や上皮内がんを含む膀胱がんの発生率が、尿中Cs137レベルにほぼ比例して上昇していることを見出しました。加えて、汚染地域住民の膀胱に上皮異形成や粘膜内癌を高頻度に伴う特異的な慢性増殖性膀胱炎を見出し、チェルノブイリ膀胱炎と命名しました。

非アルコール性脂肪肝炎 (NASH) による肝発がんの機序解明

非アルコール性脂肪肝炎(NASH: non-alcoholic steatohepatitis)は、非飲酒者で肝炎ウイルスなどの他の原因となる肝疾患が除外された非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の病態の一つであり、肝細胞癌発症の背景疾患として注目されています。我々はNASH由来の肝癌発生に着目し、NASHモデルマウスを用いた肝臓の病態および肝細胞癌発生から発がん機序解明とともに、早期病変マーカーの同定を試みています。また、ヒト肝細胞癌組織を用いた臨床材料によるヒトへの外挿を行っています。

酸化的ストレスと発がん

酸化的ストレスは、活性酸素産生により引き起こされる生体内有害作用であり、がんを含む多くの疾患に関わっております。我々は、酸化的ストレスによるDNA傷害および修復のメカニズムに着目し、8-hydroxy-2'-deoxyguanosine (8-OHdG)の修復酵素であるoxoguanine glycosylase 1(Ogg1)の遺伝子を変異・失活させたMmh/Ogg1欠損マウスを用いて、発がんとの関連を解析しております。

オミクス手法を用いた発がん性指標となる新規バイオマーカーの開発

マイクロダイセクション法および高感度質量分析機を用いて、ヒト肺がんや肝がんあるいは実験動物を用いた発がん過程における前がん病変や腫瘍における蛋白発現を網羅的に解析し、発がん早期検索マーカーを開発しています。現在、これらの手法を用いて様々な臓器における発がん早期検索マーカーの開発を精力的に進めています。

臨床への取り組み

動物実験において発がん機序を解析した結果、その発がんに重要な遺伝子および蛋白が選出されます。その発がん機序はヒトにおいても同様に重要である可能性が高く、ヒトへの外挿を目指して、ヒト臨床材料を用いた解析を行っております。その結果が、早期診断マーカーあるいは予後予測マーカーの開発や、治療標的因子の同定、がん予防に寄与できればと思っております。

臨床研究の情報公開について

腫瘍の浸潤・転移における分子機序の解明

多くのがん患者は、特定の臓器に発生したがんが浸潤および転移し、多臓器不全に陥り死に至ると言われております。がん死を克服し、天寿を全うするためには、がん浸潤・転移機序を明らかにし、制することが重要であります。近年、がん細胞が細胞集団を形成して移動する細胞集団運動(collective cell movement)が、がん転移において着目され、我々は動物実験系にて構築した転移性腎がん細胞株を用いて、転移機序解明やその抑制を目指しております。

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