遺伝子組換え

DNAは、体内、体外から常に損傷を受けている。
例えば、細胞内の活性酸素や、体外からは紫外線、放射線、化学物質などにより損傷を受けている。
しかし、生物には、DNA損傷を修復する機能がある。
特にX線や、電子線、粒子線など電離放射線(Ionizing radiation)はDNAの二重鎖を切断するため重要である。
このようなDNA二重鎖切断は、おもに相同組換えとよばれる方法と非相同末端結合とよばれる方法で修復される。

非相同末端結合修復は、切断されたDNA末端を分解処理した後、直接つないで修復する方法であるので、本来切断された部分は数塩基から数十塩基にわたって欠損してします。
一方、相同組換えによる修復は、損傷されたDNA鎖と相補的なDNA鎖を見つけ出し、損傷前の同様の塩基配列をコピーして修復するため切断された遺伝子機能も回復すると考えられ重要である。
この修復は相補的なDNAを必要とするため、細胞周期のS期を中心に行われる。
この方法に関与するのは、相同なDNAを見つけ出し組換えるRAD51, RAD52などのタンパクである。
中心となるRad51遺伝子はマウスでノックアウトさせると発生のかなり初期で致死となることから、この遺伝子はゲノムの恒常性を保つために必要であり、細胞の生存にとり重要な遺伝子であることを我々は明らかにした。


文献;Targeted disruption of the Rad51 gene leads to lethality in embryonic mice Tsuzuki T1, Fujii Y, Sakumi K, Tominaga Y, Nakao K, Sekiguchi M,
    Matsushiro A, Yoshimura Y, MoritaT. Proc Natl Acad Sci U S A. 1996;93:6236-40.


文献 ; 放射線、化学物質の受精卵、ES細胞に対する影響の研究
(1) Gene-modified embryonic stem cell test to characterize chemical risks.
   Kitada K, Kizu A, Teramura T, Takehara T, Hayashi M, Tachibana D, Wanibuchi H, Fukushima S, Koyama M, Yoshida K, Morita T. ;
   Environ Sci Pollut Res Int. 2015, 22:18252-9
(2) Low-dose irradiation of mouse embryos increases Smad-p21 pathway activity and preserves pluripotency.
   Hayashi M1, Yoshida K2, Kitada K1, Kizu A3, Tachibana D1, Fukui M4, Morita T3, Koyama M1. J Assist Reprod Genet. 2018,35:1061-1069.
(3) Control of radiosensitivity of F9 mouse teratocarcinoma cells by regulation of histone H2AX gene expression using a tetracycline turn-off system.
   Yoshida K, Morita T.Cancer Res. 2004, 64:4131-6.




ゲノム編集とDNA二重鎖切断の修復

現在、CRISPRという方法により盛んにゲノム編集が行われている。
その原理はRNA誘導型ヌクレアーゼであるStreptococcus pyogenes由来の Cas9タンパクがguide RNA(ゲノム編集では人工的に合成する)と結合し、標的遺伝子のDNAを塩基配列特異的にDNA二重鎖切断(DSB: double-strand break)することで起こる。
DNA二重鎖切断は先に述べたように、非相同末端結合で修復されるとDNA数塩基から数十塩基の欠損を生じる。
また、二重鎖切断部位と相同的で人工的なDNAを注入すると、相同組換え修復により、人工的な配列を組換えで取り込み(Knock-in)、遺伝子のデザインすることができる。


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