|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
全世界では毎年800万人が結核を発病、200万人が死亡し、有病者は2,200万人で、日本では毎年約4.8万人が結核を発病し、約2.9千人が死亡し、有病者は約5.5万人、結核は単一病原体による感染症として、世界最大です(http://www.stoptb.org/tuberculosis/index.html#TB Facts、http://www.mhlw.go.jp/search/mhlwj/mhw/houdou/1209/h0922-1_11.html)。結核は、日本も含め、世界的に近年、増加傾向を示し、再興感染症の代表です(http://www.med.osaka-cu.ac.jp/hostdefense/ITLectApr01.html)。そのため、1993年4月に世界保健機関が、1999年7月に厚生省(現 厚生労働省)は「結核緊急事態宣言」を発表、結核問題を再認識し、結核制圧対策の強化に取り組んでいくことを提言しました(http://www.who.int/gtb、http://www.jata.or.jp/rit/rj/9907kinkyu.html)。わが国の結核対策は、結核予防法に基づいて行われており、健康診断、予防、患者管理、結核医療、結核発生動向調査、特別推進事業(地域格差対策)を根幹として体系化されています(http://www.mhlw.go.jp)。
死亡
1999年の全国結核死亡総数は2,935人で、前年より140人(5.0%)増加し、死亡率は人口10万対2.3となり、前年に比し、0.1増加しています(厚生労働省人口動態統計)。死因順位は1935年(人口10万対190.8)から1950年(人口10万対146.4)まで第1位を占めてきましたが、その後、下降し、1999年では第21位となりました。年齢階級別結核死亡率は加齢に伴い、増加しています。都道府県別の最高(死亡数および死亡率)は大阪府であり、また、政令指定都市別の最高(死亡数および死亡率)は大阪市であり、結核死亡において大阪府および大阪市は群を抜いて高い値を示しています(表1)。
三重県 54(2.9) 富山県 32(2.9) |
||
長崎県 40(2.6) 宮崎県 31(2.6) |
川崎市 29(2.3) |
|
結核の登録者
1999年の新登録結核患者は48,264人、罹患率は人口10万対38.1で3年連続増加しています(表2)。年齢階級別・新登録患者数において、70歳以上は18,850人、また、この年齢階級の罹患率は132.4であり、高齢者の結核が増加していることが判ります。感染性の高い喀痰結核菌塗沫陽性患者数は17,190人、また、罹患率は13.6でした。塗沫陽性患者の内訳では、70歳以上が大きく増加し、7,189人であり、全体の40%以上を占めています。1999年12月31日現在、全国の保健所に登録されている結核患者(有病者=年末活動性結核患者数)は112,623人で、医療を必要とする活動性全結核患者は54,743人、その内、活動性肺結核患者は85%以上を占め、なお、患者数及び罹患率と同様、高齢者に有病率が高い傾向を示しています(http://www.mhlw.go.jp/search/mhlwj/mhw/houdou/1209/h0922-1_11.html、http://www.jata.or.jp/rit/rj/JGEN.HTM)。
(43,678) |
(41,033) |
||
(34.5) |
(32.4) |
||
地域格差
都道府県別からみた罹患率(全国平均 人口10万対38.2)では大阪府(大阪市を含む)、兵庫県、和歌山県が高蔓延地域、長野県、山梨県、山形県が低蔓延地域であり、地域格差が生じています。都市部では結核が増加する傾向がみられ、大阪市、神戸市、名古屋市で高率を示しています。保健所別罹患率は、大阪市西成(534.6)を筆頭に、大阪市浪速、大阪市中央、台東区台東で高く、大都市部の住居不定者や雇用の不安定な単身者が集中している特定地区で結核は深刻な健康問題になっています(表3)。
集団や院内感染
集団感染は「同一の感染源が2家族以上にまたがり、20人以上に結核菌を感染させた場合を集団感染と呼ぶ。ただし、発病者1人は6人が感染したものとして感染者数を計算する」と定義されています。近年、学校や医療機関での結核の集団感染(1995年:14、1996年:21、1997年:43、1998年:49、1999年:41事例)や院内感染(1995年:3、1996年:9、1997年:7、1998年:11事例)が報告され、増加傾向にあります。院内感染は、結核病床を有する病院のみならず、結核病床を有しない病院においても発生しており、留意する必要があります。このため、厚生省(厚生労働省)は1999年11月に「結核院内(施設内)感染予防の手引き」を策定し、周知徹底することにより、感染予防をはじめとする結核対策の強化を推進しています。
結核増加要因
発生動向として、1)社会要因:人口の流動化/集中化/都市化、移民、貧困、結核対策の不備/軽視、2)宿主要因:免疫学的弱者の増加(高齢化、ヒト免疫不全ウイルス感染症/後天性免疫不全症候群、糖尿病、慢性腎不全、副腎皮質ステロイド/免疫抑制薬)、3)結核菌要因:薬剤耐性結核菌の出現や病原性の変化などの諸要因により、結核は世界的に増加し、現在でも、人類にとって大きな脅威です(表4)。
人口の集中/都市化、国際化/移動・移民、貧困、 感染症対策の行政不備 |
|
免疫学的弱者/易感染性宿主の増加 (高齢者、糖尿病、慢性腎不全、ヒト免疫不全症ウイルス 感染、免疫抑制薬/臓器移植、免疫疾患) |
|
薬剤耐性菌の出現 病原性の変化 |
結核菌の発見以来、100年以上が経過し、遺伝子の全貌(塩基配列)が解明されました(Nature 393: 537-544, 1998)。今後、遺伝子解析を基盤とした科学的戦略が推進され、分子/遺伝子標的を視点とした抗結核薬の開発、薬剤耐性獲得機構の解明や新規ワクチン開発が展開されることでしょう(表5)。
桿菌(0.2-0.6 x 1-10 micrometer) 宿主細胞、特に、大食細胞(マクロファ-ジ)内で抗菌機構から逃れて発育/増殖 |
|
脂質成分が豊富なため、疎水性であり、化学物質にも安定 通常のグラム染色に難染色性、抗酸性 |
|
結核菌感染において、無発症/無症候性に経過する例から激症/播種性に経過する例まで種々あり、結核菌感染という単一現象における宿主の表現型は多様です。さらに、細胞性免疫不全が存在しない場合、生涯発病率は感染者の10%以下であり、換言すれば、90%以上は内因性防御機構により、発病を回避しています。この機構は遺伝子ム細胞ム細胞間情報伝達物質の統合により表現されています(表6、図1)。
マクロファ-ジやT細胞が局所性に集積した慢性炎症病変、すなわち、肉芽腫炎症は宿主抗菌防御として有益ですが、反面、自己組織破壊(乾酪壊死や空洞形成)や線維化を伴い、その結果、臓器機能不全を招来し、宿主に不利益を与える側面も存在しています。この不利益な反応が宿主の結核菌感染への対抗する防御手段として、不可避な自己犠牲なのかは不明です。
結核菌を検出する病原体診断と補助的診断に大別されますが、確定診断には病原体診断が必須となります。
喀痰塗沫菌検査:抗酸菌染色 結核菌培養検査:寒天培地 4-8週間 液体培地 10-14日 菌遺伝子検出: ポリメラ-ゼ連鎖反応 |
|
胸部X線検査:中および上肺野病変、胸膜炎/胸水貯留 病理組織学的検査:肉芽腫および乾酪壊死 ツベルクリン皮内反応:陽性と抗菌防御は相関しない 陽性;BCG陽転、結核菌感染、非結核性抗酸菌感染 陰性;未感染、BCG未接種、免疫不全(HIV/AIDS、 重症結核、薬物性) |
行政対応として、結核予防法(http://www.normanet.ne.jp/~hourei/h096R/s260331h096.htm)に従い、医師は、診察の結果、受診者が結核患者であると診断したときは、2日以内に、もよりの保健所長に届けなければなりません(22条)。病院の管理者は、結核患者が入・退院したときは、7日以内に、もよりの保健所長に届けることになっています(23条)。これらの報告は、結核発生動向調査の基礎となる貴重な情報です。
抗結核療法は1)抗菌薬の浸透が悪い:細胞壁が脂質に富む、2)細胞内寄生病原体、3)緩徐な増殖・分裂のため、長期間の治療が必要です(通常、6ヶ月)。実際、効果的治療や薬剤耐性菌出現の防止のため、多剤併用や確実な服薬(直接監視下短期化学療法:DOTS)が不可欠です(http://www.stoptb.org/home.html)。
世界保健機関(WHO)標準治療は、INH+RIF+EMB+PZA:2か月、INH+RIF:4か月間、確実な服用(DOTS)を推奨しています。
WHOが世界35か国の薬剤耐性結核発生動向について調査したところ、全地域、そして、全薬剤に対して耐性/抵抗性菌が検出され、薬剤耐性結核は地球規模の問題です。1)抗結核薬の供給、2)標準化治療の不備、3)院内感染、4)刑務所感染、5)移民は耐性菌出現に促進的であり、すなわち、耐性結核菌出現頻度は結核制圧プログラムの質と関連しています。WHO-DOTSを履行している国では耐性菌出現の頻度が低いことからも明白です(http://www.who.int/health-topics/tb.htm)。耐性検査の標準化および技術の向上、耐性菌発生動向調査の確立は制圧に必須です(http://www.normanet.ne.jp/~hourei/h096R/s260331h096.htm)。
特に、最も強力な抗結核薬であるINHやRIFに同時耐性である多剤耐性結核菌の出現は、結核制圧に大きな課題となっています。初回治療患者における多剤耐性結核菌の出現頻度は0.9%(日本)および1.4%(世界)ですが、増加することが懸念され、警戒が必要です。地域的に、旧ソ連、東欧諸国、血ゅ南米:ドミニカ、アルゼンチン、アジア:タイ、インド、中国で多剤耐性結核が多いようです。耐性結核に有効な新規抗結核薬開発が進んでいますが、当然、汎用された場合、新たな耐性結核菌が出現することは不可避です。
痘瘡を根絶した種痘は極めて効果的な予防戦略でしたが、結核では決定的な予防戦略はありません。予防介入として、1)弱毒ウシ型結核生菌:bacille Calmette-Guerin(BCG)接種や2)化学予防:結核菌感染者に発病を予防するため、抗結核薬(INHなど)が頻用されてます。
乳幼児結核:70-80%の発病抑制 成人型結核:評価は一定していない |
||
今後、薬剤耐性結核の増加(抗結核菌化学療法薬は無効)、少ない投与回数(化学予防は6-9か月間、連日服用)でも、有効な新規ワクチン開発が進行中であり、WHOは2020年を目途としています。
結核対策の基本は1)感染予防、2)発病予防、3)確実な治療です。結核対策上、我が国が対応を迫られている問題点として、1)一般国民、医療関係者、行政の結核に対する認識の低下、2)臨床医の結核診断能力の低下、3)特異的、迅速かつ簡便な結核菌感染の検査法の開発、4)高齢結核患者の増加、5)蔓延状況の地域格差、6)集団や院内感染の続発及び増加、7)薬剤(特に、多剤)耐性結核の出現、などがあります。結核菌の全遺伝子塩基配列が解読された現在、結核菌生物学や病原性の解明が進展し、その結果、迅速診断、新規抗結核薬やワクチン開発が期待されます。今後、再興感染症として、結核の重要性を認識し、確実な治療や予防対策を推進することが必要です(http://idsc.nih.go.jp/index-j.html)。