グラム陽性球菌

学術的分類
BacteriaBacillota(門)>Bacilli(綱)>Lactobacillales(目)>Streptococcaceae(科)>Streptococcus(属)
BacteriaBacillota(門)>Bacilli(綱)>Lactobacillales(目)>Enterococcaceae(科)>Enterococcus(属)
BacteriaBacillota(門)>Bacilli(綱)>Caryophanales(目)>Staphylococcaceae(科)>Staphylococcus(属)

臨床的分類
細菌の分類 > 1. グラム陽性球菌

 グラム陽性球菌の概要

 グラム陽性球菌は、一列に並ぶ菌(連鎖状、chain)と、ブドウの房のように塊状になる菌(ブドウ状、cluster)に分類される(図1)。
 連鎖状の菌として、臨床的に重要な菌はStreptococcus属とEnterococcus属で、Streptococcus pneumoniaeStreptococcus pyogenesStreptococcus agalactiaeEnterococcus faeciumEnterococcus faecalisが代表的な菌種である(図2)。
 Streptococcus属は、溶血性によっても分類される(図3)。
 ブドウ状の球菌には、Staphylococcus属とMicrococcus属が含まれるが、Micrococcusはほとんど病原性がないことから、本講義では扱わない。
 Staphylococcus属の代表的な菌種はStaphylococcus aureusである(図4)。
 Staphylococcus属は、H2O2をH2OとO2に分解するカタラーゼを持つが、Streptococcus属とEnterococcus属はカタラーゼを持たない(図1)。
 Staphylococcus属は、コアグラーゼの有無で分類するのが一般的で、コアグラーゼ陽性≒Staphylococcus aureus、コアグラーゼ陰性=コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)で、CNSの90%程度がStaphylococcus epidermidisである。S. aureusは、メチシリンというペニシリン系薬に対する耐性度により、感受性=MSSA、耐性=MRSAに分類される。
 耐性機序は、mecA遺伝子にコードされるPBP2’である**。MRSAは、メチシリンのみならず、多くの抗菌薬に耐性を示すことから感染制御上重要な菌である。抗MRSA薬として、バンコマイシン、テイコプラニン、アルベカシン、リネゾリド、ダプトマイシン、テジゾリドという抗菌薬が重要である。

図1 グラム陽性球菌の分類
図1 グラム陽性球菌の分類
図1 グラム陽性球菌の分類
図2 グラム陽性球菌の分類
図3 溶血性
図3 溶血性
図4 ブドウ球菌の分類
図4 ブドウ球菌の分類
*嫌気性(偏性嫌気性)菌は除く。グラム陰性球菌、グラム陰性桿菌でも嫌気性菌を除いた。
**PBPは、ペニシリン結合蛋白の略で、細胞壁合成酵素である。MSSAはペニシリンが結合しやすいPBP2を有するが、MRSAが有するPBP2’は、細胞壁合成の機能を維持したまま、β-ラクタム系が全般的に結合しにくくなるため、全てのβ-ラクタム薬に耐性となる。

注1
名称について  生物の正式な名称は、学名と呼ばれ、通常は、属名と種名をイタリックで併記する二命名法で記載される。Streptococcusが属名で、pneumoniaeが種名である。属名は省略して、S. pneumoniaeのように記載することが許されている。学名のほかに、通称名(ないし俗名)で呼ばれることもある。Streptococcus pneumoniaeは、肺炎球菌、肺炎連鎖球菌、肺炎双球菌、Diplococcus、Pneumococcusと呼ばれることがあるが、いずれも通称名である。なお、本講義では、曖昧さを回避するため、原則としてStreptococcus pneumoniaeまたは肺炎球菌で統一する。また、Streptococcus属は、連鎖球菌またはレンサ球菌と呼ばれるが、本講義では、連鎖球菌で統一する。なお、連鎖球菌と称する場合は、Streptococcus属を指すものとし、連鎖状球菌(ないし連鎖状の球菌、chain)と称する場合には、Streptococcus属とEnterococcus属の双方を指すものとする。
注2
好気性、通性嫌気性(単に通性と呼ばれることも)、嫌気性(偏性嫌気性)の相違  簡単に説明すると、好気性菌は酸素のある条件でのみ発育できる菌、嫌気性菌は酸素のある条件では発育できない菌、通性嫌気菌とは双方の条件で発育可能な菌である。近年は、中間的な性質を示す場合があることが示されており、明瞭に分類することが難しいことがわかってきている。臨床的には、嫌気性か、それ以外(つまり、好気性と通性菌)の違いが最も重要である。なお、グラム陰性桿菌の場合、ブドウ糖の発酵能によって分類され、ブドウ糖発酵菌≒通性嫌気性、ブドウ糖非発酵菌≒好気性の関係にある。単に嫌気性と呼ぶ場合には、偏性嫌気性を指すことが多いため、本講義では、通性嫌気性は通性嫌気性、偏性嫌気性は嫌気性で統一する。

 主なグラム陽性球菌

  1. ストレプトコッカス(Streptococcus)属(連鎖球菌属)
    1. Streptococcus pneumoniae(肺炎球菌)
    2. Streptococcus pyogenes
    3. Streptococcus agalactiae
    4. その他の連鎖球菌
  2. エンテロコッカス(Enterococcus)属(腸球菌属)
    1. Enterococcus faecium
    2. Enterococcus faecalis
    3. その他の腸球菌
  3. スタフィロコッカス(Staphylococcus)属(ブドウ球菌属)
    1. Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)
    2. Staphylococcus epidermidis(表皮ブドウ球菌)
    3. その他のブドウ球菌
  4. ミクロコッカス(Micrococcus)属
カタラーゼ 種名 別称 主な特徴
陰性 Streptococcus
ストレプトコッカス
pneumoniae
ニューモニエ
肺炎球菌
肺炎双球菌
肺炎連鎖球菌
Pneumococcus
Diplococcus
双球菌。α溶血。尿中抗原。喀痰抗原。
肺炎、侵襲性感染症。ワクチン(PCV13、PPSV23)。
pyogenes
ピオジェネス
A群溶連菌
(Group A Streptococcus, GAS)
連鎖球菌。β溶血。
咽頭炎、猩紅熱。劇症型感染症。急性糸状体腎炎。
agalactiae
アガラクティエ
B群溶連菌
(Group B Streptococcus, GBS)
連鎖球菌。β溶血。
髄膜炎。
Enterococcus
エンテロコッカス
faecium
フェシウム
腸球菌 連鎖状球菌。
菌血症。
faecalis
フェカリス
陽性 Staphylococcus
スタフィロコッカス
aureus
アウレウス
黄色ブドウ球菌 コアグラーゼ陽性。
菌血症、せつ、癰、化膿症、膿瘍。
epidermidis
エピダーミディス
表皮ブドウ球菌 コアグラーゼ陰性。CNSの代表。
菌血症。

 主要なグラム陽性球菌の学術的な分類における位置づけ

Phylum(門)
フィラム(モン)
Class(綱)
クラス(コウ)
Order(目)
オーダー(モク)
Family(科)
ファミリー(カ)
Genus(属)
ジーヌス(ゾク)
Bacillota Bacilli Caryophanales Bacillaceae Bacillus
Listeriaceae Listeria
Staphylococcaceae Staphylococcus
Lactobacillales Enterococcaceae Enterococcus
Lactobacillaceae Lactobacillus
Streptococcaceae Streptococcus

2020年8月20日開設 2022年3月14日更新

作成にあたり、以下のサイトを参考にしています。
List of Prokaryotic names with Standing in Nomenclature(LPSN)
https://lpsn.dsmz.de/