医学部講座概要「21世紀の感染症に挑む」 |
世界の年間総死亡は5,400万人、内訳として、循環器疾患:1,670万人、感染症:1,350万人、悪性新生物:700万人であり、感染症は総死亡の約1/4を占めている。さらに、悪性新生物(胃癌:ヘリコバクター・ピロリ、肝細胞癌:肝炎ウイルス、子宮頚癌:乳頭腫ウイルスや成人T細胞白血病:白血病ウイルス)や動脈硬化に病原体感染(肺炎クラミジア)が関与し、感染症は広範で甚大な健康被害を招来している。感染症の増加には、社会要因として、都市化/過密、貧困、交通機関の発達による高速移動や国際化、宿主要因として、易感染性(高齢化、糖尿病、免疫抑制薬/臓器移植)、病原体要因として、病原性の変化や薬剤抵抗性などが関与している。世界保健機関は後天性免疫不全症候群、結核およびマラリアに対し緊急事態を宣言している。21世紀の世界や人類は感染症制圧戦略を模索するであろう。教育・行政・社会基盤整備に加えて、人類の叡智が感染症を克服することを期待している。 |
20年前には地球上から天然痘ウイルスが根絶され,現在はポリオウイルスも制圧されつつあります。しかし,近年ヒト免疫不全(エイズ)ウイルスやエボラウイルス等の新興・再興ウイルス感染症が出現し,致死性感染症の原因としてその脅威が再認識されています。一方,それとは対照的に,ウイルスを病気の治療手段として,すなわち遺伝子の運び屋として利用しています。このような状況をより理解するため,細胞レベルのウイルス感染と生体レベルのウイルス感染を概説し,それら具体的なウイルス感染症やウイルスによる遺伝子治療について話しをしたいと思います。
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欧米諸国においては、高齢者などハイリスク者に対するインフルエンザの予防接種を強力に推進しています。また新型ウイルスによる世界的大流行(パンデミック)への対応策を、国レベルで検討しています。このような背景を踏まえ、まず主要諸国におけるパンデミック対策の概要(ウイルス監視の強化,ワクチン生産の増大、ワクチン配布の優先順位の設定など)を解説します。また毎年の流行に適切に対応できる常時システムの確立が,パンデミックに対する最高の防御手段であることから,先進諸国におけるインフルエンザ対策の現状(ワクチン接種対象者の勧告,接種費用の負担制度など)について述べます。日本では諸外国に比べて予防接種に対する関心が未だ十分ではなく,接種費用の負担制度もありません。日本におけるこのようなの特殊性の理解に資するため、わが国におけるインフルエンザの疾病概念や、ワクチン有効性評価を巡る論点を解説します。
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WHO(世界保健機構)は1996 年に「今や世界は感染症の危機に瀕している」という報告書を発表しました。現在、世界の人口の40% はマラリア感染の危険地域に住み、毎年、200 万人以上の人々が死亡しています。また、10 億人が回虫、鉤虫、住血吸虫、赤痢アメーバなど寄生虫病に感染しています。さらに、WHOは将来、地球の温暖化、自然環境の破壊、国際紛争の増加などによって、寄生虫病を含む熱帯病の拡大と増加を予測しています。わが国においても、交通運輸のグローバル化にともない熱帯からの輸入寄生虫病が増加しています。また、刺身やいろいろの生ものを喫食する習慣から、アニサキス症、条虫症が増加しています。イヌ、ネコ、ペット、野生動物から、私たちはいろいろの寄生虫に感染します。今まで、わが国では生息していなかった毒グモが身近に繁殖しています。本講座では3回にわたり、原虫、蠕虫、そして衛生動物による病害について考えていきたいと思います。 第1回 原虫による寄生虫病:マラリア、トキソプラズマ症、赤痢アメーバ症 (平成14年1月) 第2回 蠕虫(線虫、吸虫、条虫)による寄生虫病:アニサキス症、イヌ回虫症、マンソン孤虫症、裂頭条虫症、エキノコックス症 (平成14年2月) |