話を簡単にするために、細かな例外は、あえて無視した。ダイジェスト版の内容は、あくまでも原則であることを理解した上で活用して下さい。
大きさ1〜数μm程度の、二分裂で自律増殖する単細胞の微生物*。脂質二重膜の細胞膜で囲まれた細胞質を有し、細胞質内には染色体がある。染色体は核膜で囲まれていないので、核膜を持つ真核生物に対して、原核生物と呼ばれる。小胞体やミトコンドリアなどの細胞内小器官は持たない。細胞膜の外側には多糖で構成される細胞壁を有する*。細胞壁の外側に脂質二重膜の外膜を有する細菌もいる。
形態は、細菌の種類によりさまざまであるが、基本的な形態は、球状か桿状である。細胞を観察するためには、顕微鏡が必要で、細菌の場合には、400〜1000倍程度に拡大する必要がある。また、細菌を含め、多くの細胞は無色透明なので、無染色での観察は困難である。最も頻用されている染色法は、グラム氏が開発したグラム染色である。グラム染色の利点は、菌の種類により青と赤に染め分けられる点にある。詳細は後述するが、青に染まる菌をグラム陽性菌、赤に染まる菌をグラム陰性菌と称する。
*例外が存在する。
最も基本的な細菌の染色法であり、一部の例外を除いて適応可能である。手順を簡単に説明すると、青で染める、脱色する、赤で染める、だけのシンプルな方法である。全ての菌は初めに青に染まる。アルコールを用いて脱色するが、脱色されるものとされないものがあり、脱色された菌を赤で染めなおすことで、青と赤に染め分けることが可能である*。脱色されずに青に染まるグラム陽性菌は、細胞壁が厚く、いったん青に染色されると脱色されにくい。一方、脱色されて赤に染まるグラム陰性菌は、細胞壁が薄く、脱色液によって容易に脱色される。また、グラム陽性菌には外膜が存在しないが、グラム陰性菌には細胞壁の外側に脂質二重膜の外膜が存在する。
*染色性の原理は十分に解明されていないものの、細胞壁の厚さが染色性に影響していることが指摘されている。
よく遭遇する機会の多い菌(一般細菌)は、染色性(グラム陽性・陰性)と形状(球菌・桿菌)との組み合わせで、大きく4つに分類可能である。分類ごとにポイントが異なるので、講義に先立ち整理しておく。それ以外の菌については、代表的な菌種を押さえておくことが重要である。なお、日常的に遭遇しやすい菌を頻度で比較すると、グラム陽性球菌=グラム陰性桿菌>グラム陰性球菌=グラム陽性桿菌>その他の菌(抗酸菌、非定型菌など)、となる。以下1〜11に分類ごとの要点をまとめた。
基礎的観点からは、病原体別に感染症を理解することも重要であるが、臨床的には他の視点、特に臓器別の感染症に分類した理解も必要になる。日常的にしばしば遭遇する感染症は、呼吸器、尿路、消化管感染症である。侵入門戸として、呼吸器系、尿路、消化管は外界に開放されているためである。また、頻度は高くないが、重症度という観点からは、中枢神経系感染症も重要である。
肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマ、レジオネラ、クラミドフィラ、肺炎桿菌、大腸菌、緑膿菌、ブドウ球菌など。
年齢により、原因菌が大きく異なる。2か月未満の新生児では、GBS、大腸菌が多く、妊婦の膣周辺の常在菌として保有していることがあり、垂直感染で起こる。Listeria monocytogenesは頻度が低いが重要な原因菌である。2か月以上になると、Haemophilus influenzae(特にtype b、すなわちHib)やStreptococcus pneumoniaeの割合が増える。小児の髄膜炎を予防するワクチンとして、ヒブ・肺炎球菌ワクチンがある。いずれも、莢膜抗原をトキソイド(ヒブの場合には破傷風、肺炎球菌はジフテリアのトキソイド)と結合させたワクチンである。成人では、Haemophilus influenzaeの髄膜炎はまれで、Streptococcus pneumoniaeが主体となる。
*垂直感染=出産や授乳による母子感染、水平感染=それ以外の感染
毒素型と感染型に分類すると病態が理解しやすい。感染性胃腸炎の原因菌は、圧倒的にブドウ糖発酵グラム陰性桿菌が多い。
敗血症と菌血症の相違を理解することが重要である。
我々教員の役割は、いずれ、一人で乗れるようにするための自転車の補助輪のようなものである。詳細な部分まで教員が手とり足とり教える時間はない。したがって、細菌学の講義で目指すところは、考え方のフレームづくりである。詳細なコンテンツの部分は、基本的に学生本人の自主性に任せたいと思う。時に、具体例として、細かい部分を説明することはあるが、細かく覚えてほしいということではない。具体例を挙げることで、しっかりとした考え方のフレームを作ってほしいという思いから、説明しているに過ぎない。できれば、しっかりした教科書や成書、さらには一次資料(教科書の基になっている原文など)を読んで勉強してほしい。ただし、細菌学のみに時間を割くことができないという事情を考慮し、eTextなどを準備しているので、せめてこれだけでも是非目を通しておいてほしい。不完全ながらも参考になるようにと、3年生で知っておいてほしい知識についてはある程度網羅している。
知識は知っているだけではなく、使えるようにすることが重要。MICの意味を知るということは、単に「MIC=最小発育阻止濃度」ということを知っているということではなく、臨床的にどう使われているのかを知ること。例えば、腸球菌のバンコマイシンの感受性を検査して、MIC=8μg/mLという結果が得られた場合、VREであることを意味し、バンコマイシン以外の抗菌薬にも耐性を示すことなど、感染制御上の意義を理解することが必要である。したがって、MIC単独で理解するのではなく、耐性菌やPK-PD理論などと一緒に理解しなければならない。
2020年3月26日開設 2020年3月26日更新