診療と研究

食道アカラシア外来について

食道アカラシアは、食道の出口の筋肉が緩まず開きにくくなったり(下部食道括約筋の弛緩不全)、食道の食物を運ぶ蠕動運動に異常があったりすることにより、飲食物の食道の通過が障害され、つかえ感、嘔吐(逆流)、体重減少、胸痛などを主症状とする疾患です。食道の筋肉を支配している神経の変性などが原因といわれていますが、その詳細については未だ解明されていません。10万人に1人に発症するといわれている稀な疾患ですが、小児から大人や高齢者まで、どなたでも発症する可能性があります。また、食道癌を合併することもあります。

診断

食道アカラシアの診断は、主に下記(1)~(3)の検査で行います。

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

内視鏡で食道から胃まで観察します。食道アカラシアでは、食道内の液体や食物残渣の貯留、食道内腔の拡張、食道粘膜の浮腫、食道下部の狭窄(弛緩不全)などがみられます。

図1 上部消化管内視鏡検査(食道アカラシア)

食道造影検査(バリウム検査)

バリウムを飲んで、食道を通過するところをレントゲンで撮影します。食道アカラシアでは、食道の拡張や蛇行、バリウムの貯留がみられ、下部食道部付近が開きません。

図2 食道造影検査(正常と食道アカラシア)

食道内圧検査

鼻から細いカテーテルを胃まで挿入し、食道の動きを観察します。食道アカラシアでは、正常な蠕動運動が消失し、下部食道括約筋の弛緩不全がみられます。

図3 食道内圧検査(正常と食道アカラシア)

治療

  • 薬物治療
  • ボツリヌス毒素注入療法
  • バルーン拡張術
  • 外科手術
  • 経口内視鏡的筋層切開術(Per-oral Endoscopic Myotomy: POEM)

薬物治療は、下部食道括約筋を弛緩させる(緩める)薬を内服しますが、治療効果は高くありません。ボツリヌス毒素注入療法は、下部食道括約筋を弛緩させる目的でボツリヌス毒素を食道へ注入する治療ですが、治療効果は一時的であり、また日本では保険治療ではなく、一般的ではありません。バルーン拡張術は、下部食道括約筋を医療用の風船で広げる治療で、簡便なことから広く行われてきましたが、効果は一時的であることが多く、繰り返し治療が必要となることがあります。外科手術は、腹腔鏡で食道の外側から筋層を切開する方法であり、最も効果が高いとされてきましたが、手術による身体の負担や、手術で筋肉を切開する部位が制限されるために一部の患者さんでは治療効果が低いことなどが問題です。

経口内視鏡的筋層切開術(Per-oral Endoscopic Myotomy: POEM)(図1)は、2008年に昭和大学の井上晴洋教授が世界に先駆けて開発した治療法であり、胃カメラを用いて食道の筋肉を切開します。体表に傷をつけることなく治療を行えるため身体の負担が少なく、外科手術の同等以上の治療効果が期待できる新しい治療法です。また、食道アカラシアだけではなく、びまん性(遠位)食道痙攣やジャックハンマー食道といわれるその他の食道運動異常の疾患に対してもPOEMは有効です。日本では、POEMの有効性と安全性から、2016年4月より保険適応となっています。しかし、高度な技術や施設基準を要するため、国内でPOEMを実施できる施設は限られており、現在のところ大阪でPOEMの施行可能な施設は当院のみです。

図4 経口内視鏡的筋層切開術(Per-oral Endoscopic Myotomy: POEM)

POEMの手技の実際

  • 口から内視鏡(胃カメラ)を挿入し、電気メスを用いて食道の内側(粘膜面)から切り目を入れ、粘膜と筋肉の間(粘膜下層)に内視鏡を潜り込ませます。
  • 内視鏡を胃まで進めて、粘膜下層にトンネルを作成します。
  • 食道から胃の入り口までの筋肉(主に内側の筋肉)を切開します。
  • 筋肉の切開が終了した後、食道粘膜の切り目をクリップで縫縮して治療終了です。

図5 当院で食道アカラシアに対してPOEMを施行した症例の食道造影検査

当院では2018年1月よりPOEMを行っております。食道アカラシアの専門外来も開設しましたので、食道アカラシアやその他の食道運動異常と診断された方や、これらの疾患と思われる症状でお悩みの方は、当院までご相談ください。