診療と研究

慢性便秘症の診断・治療

慢性便秘症

平成28年厚生労働省の国民生活基礎調査によると便秘の有訴者率は男性では2.5%、女性で4.6%であり、継続的に増加しており、日々の診療でも遭遇することの多い疾患です。2017年10月に日本消化器病学会関連研究会「慢性便秘の診断・治療研究会」から日本初となる「慢性便秘症診療ガイドライン」が刊行されたことや、複数の新しい便秘治療薬が発売されたこともあり、近年便秘診療は進化しています。当院においても2018年4月より「便秘外来」として便秘に特化した専門外来を設置しています。一言に「便秘」といっても、原因は様々です。当院では必要に応じて専門的な機能検査等も受けて頂き、患者様お一人おひとりに応じた治療を行っていきます。治療の選択肢はひろがったものの、患者様のなかには内科的治療に抵抗性のいわゆる難治性のケースも少なくありません。そういった患者様に対し、当院では専門的な機能検査や特殊な治療(バイオフィードバック療法)をおこなっています。

専門外来

毎週金曜日 午前に便秘専門外来をおこなっています。便秘薬を飲んでもなかなか症状が改善しない患者様がいらっしゃいましたら、かかりつけ医を通して、当院便秘外来へ紹介してもらってください。また、そのような患者様を診られている医療機関の先生がいらっしゃいましたら、ぜひご相談ください。

専門的機能検査

当院で施行している専門的検査には排便造影検査、直腸肛門内圧検査、直腸感覚検査、バルーン排出検査があります。

直腸肛門内圧検査

約4mmの幅のチューブを肛門から10cm程度挿入し、おしりを絞めたり、いきんだりしてもらい、直腸や肛門の圧を測定し、排便の運動機能の異常がないか評価します。排便方法の指導(バイオフィードバック療法)に用いることもあります。



直腸感覚検査、バルーン排出検査

直腸感覚検査では肛門から風船を入れて、少しずつふくらませていき、最初に便意を感じた時の量や便意を我慢できなくなった時の量を測定し、直腸の感覚の低下がないか評価します。バルーン排出検査ではどのくらいの容量のバルーンを排出可能か測定し、排便機能に問題がないか評価します。骨盤底筋協調運動障害などの機能性便排出障害の診断に用いられます。

排便造影検査

バリウムと小麦粉を混ぜて作った疑似便を肛門からチューブを使って注入します。その疑似便を排泄していただきレントゲンで直腸肛門の形態的な動きや括約筋の協調運動を評価します

いずれの検査も痛みを伴わない検査です。食事制限や特別な前処置等も必要ありません。入院の必要はなく、通常外来でおこなっています。

バイオフィードバック療法について

骨盤底筋協調運動障害などの機能性便排出障害の患者様が対象となります。
直腸肛門内圧計、直腸バルーンなどを用いて、自身の肛門の動きを意識化させることにより運動障害を改善させるトレーニング方法です。

研究

当院を受診する患者様は難治性便秘症が多く、専門的機能検査を施行した結果、患者様の大半で直腸肛門内圧検査にて何らかの異常が検出され、そのうち約25%が実際に排便造影検査にて排泄低下が確認されています。便秘薬で改善しない患者様を対象にひとりひとりに応じたバイオフィードバック療法や生活習慣の指導を行っています。また臨床研究として難治性便秘患者様の臨床的特徴や病態の検討を進めています。(JDDW 2020 パネルディスカッション「機能検査を用いた難治性便秘症の診療における現状の課題」) 今後は難治性便秘症と生活習慣などの関連についても検討予定です。また専門的機能検査を用い、早期の直腸癌患者における内視鏡治療前後の直腸肛門機能の変化についての研究を行っています。