診療と研究

炎症性腸疾患研究

広義の炎症性腸疾患は、腸管で炎症が生じる疾患の総称となり、潰瘍性大腸炎やクローン病だけでなく、感染性腸炎や虚血性腸炎なども含みますが、狭義の炎症性腸疾患としては、潰瘍性大腸炎、クローン病、腸管型ベーチェット病といった、特発性(つまり原因不明の疾患)の腸炎を指します。この炎症性腸疾患の原因としては、当科の炎症性腸疾患基礎診療グループでは、数多くの患者様を外来で治療にあたらせて頂いていることもあり、臨床的な研究だけでなく、橋渡し研究や基礎研究も行っております。

炎症性腸疾患患者様の手術・生検検体を用いた研究

炎症性腸疾患とヘルペスウイルス感染

炎症性腸疾患の内視鏡検査時生検サンプルを用いて、multiplex-PCRでヒトヘルペスウイルス感染の有無を評価し、臨床背景との関連を解析しました。潰瘍性大腸炎(UC)では、EBウイルス・サイトメガロウイルス・HHV-6の重複感染症例が存在し、これらの重複感染症例では大腸全摘術のリスクが高いことが明らかとなりました。

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炎症性腸疾患と炎症・敗血症マーカー

Soluble CD14 subtype (sCD14-ST) 及びsoluble interleukin-2 receptor (sIL-2R) 血中濃度と、炎症性腸疾患の臨床的・内視鏡的活動性との相関を検討し、クローン病では敗血症マーカーであるプレセプシン(sCD14-ST)が臨床的・内視鏡的活動性と正の相関を示し、sCD14-ST・sIL-2Rは粘膜治癒症例で有意に低値を示しました。

基礎研究

腸管粘膜傷害におけるプロスタグランジン輸送蛋白(SLCO2A1)の役割の検討

Slco2a1の全身性ノックアウトマウス(Slco2a1-/-マウス)とマクロファージ特異的ノックアウトマウス(Slco2a1ΔMPマウス)・腸管上皮特異的ノックアウトマウス(Slco2a1ΔIECマウス)を作出し、腸管における表現型を解析しました。Slco2a1の全身性欠損とマクロファージ特異的欠損で、DSS腸炎が悪化することを発見し、その機序として、PGE2の再取り込み阻害がマクロファージ周囲のPGE2の濃度上昇をきたし、インフラマソーム活性化を介していることを見出し報告しました。

海外との共同研究

小胞体ストレス応答によるNKG2Dリガンド発現機構と腸炎への関与の解明

腸上皮特異的Xbp1欠損マウスの自然発症腸炎におけるgroup 1 innate lymphoid cellsの(group 1 ILCs)を介した免疫応答を詳細に評価し、腸管上皮間リンパ球中のgroup 1 ILCsの増加を認め、NK細胞などの自然免疫細胞の活性化レセプターであるNKG2Dの発現亢進を確認しました。その誘導メカニズムの探索の結果、NKG2Dのリガンドの一つであるMULT1がXbp1欠損腸上皮細胞や小胞体ストレス刺激下の腸上皮細胞で誘導されていることが明らかとなりました。さらにgroup 1 ILCsが腸炎惹起に関与していることの裏付け実験として、Rag欠損・腸上皮特異的Xbp1のダブルノックアウトマウスの作成、マウスへのNK1.1抗体、NKG2D阻害抗体投与実験で証明しました。

腸管上皮小胞体ストレスによる腸管保護的IGA産生誘導の解明

腸管上皮細胞特異的Xbp1欠損マウス(Xbp1ΔIEC)の詳細な解析を行い、過剰な腸管小胞体ストレス状態にあるマウスの腸管では、免疫グロブリンA(IgA)の産生が亢進していることが明らかとなりました。IgA産生誘導のメカニズム解析のために、T細胞やパイエル板も同時に欠損したXbp1ΔIECマウスを解析したところ、小胞体ストレスで誘導されるIgAはT細胞非依存性に誘導される結果が得られました。また、無菌マウスの検討から、炎症や腸内細菌叢にも依存しないことが明らかとなりました。APRILやBAFF 産生には変化は無かったものの、Xbp1ΔIECマウスの腹腔内においてはB1b細胞が増加していることがわかり、この腹腔内B1b細胞が腸管小胞体ストレスによるIgA誘導の経路であることが判明しました。

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