すてーじ

6月のお題

夏型や トリコスポロンが 梅雨の後

梅雨

 

解説

感染症だけではない、カビの病気−夏型過敏性肺臓炎
 いよいよ梅雨の時期ですね。今回の一句は、芭蕉の有名な俳句、「夏草や兵どもが夢の跡」をもじったものです。ということで、 梅雨の時期に多い夏場のカビによって起こる代表的な病気をご紹介します。
 カビは、専門的にいうと「真菌」と呼ばれ、真菌による病気のことを「真菌症」と呼びます。真菌も細菌と同じように、感染症の原因となりますが、 今回ご紹介する「夏型過敏性肺臓炎」という病気は、厳密に言うと感染症ではなく、ある種の真菌に対するアレルギーがその本態です。
 「夏型」が示すように、夏場に多い病気で、原因となるTrichosporon asahii という真菌が、温かくて湿った場所を好むために夏に多く起こります。また、「過敏性」というのは、アレルギーという意味で、 T. asahiiを吸い込むことで、肺の中に起こるアレルギーです。
 主な症状は、発熱、咳、呼吸困難です。木造の古い家屋に住んでいるヒトに比較的多いと言われていますが、T. asahiiが 発育しそうな環境(風通しや日当たりが悪いなど)であれば起こりえます。ただし、元々の体質にもよるといわれており、真菌がいる場所に住んでいるからといって 必ずしも病気になるわけではありません。喘息の素因や遺伝的な要因もあると考えられ、半数以上が家族内で起こるといわれています。
 診断のためには、症状・レントゲン等、環境の状況、血液検査等が必要です。胸のレントゲンでは、細菌などによる一般的な肺炎に比べ、淡い影が特徴で、 症状等からこの病気と合致すれば、さらに検査を進めます。血液検査では、T. asahiiに対する抗体の有無を確認し、 陽性であれば夏型過敏性肺臓炎の可能性が高くなります。
 最後に治療についてご説明します。一般的に、細菌や真菌の感染症では、菌を殺すための薬(抗菌薬や抗真菌薬)が用いられますが、夏型過敏性肺臓炎には抗真菌薬を使いません。 実は、この病気、入院しただけで治ります。もっと正確に言うと、自分の家にいなければ、つまり、T. asahiiがいない環境にいれば、 自然に治ります。考えてみれば当たり前ですね。ですから、入院しただけで治った場合には、この病気の可能性があります。ほとんどの方は、治ると自宅に帰るわけですが、 どんな綺麗に片付けて、きちんと掃除をしても再発する人が多い厄介な病気でもあります。引っ越さなければならない例や引っ越しても再発する例もあります。 また、繰り返すうちに肺が硬くなり、肺の機能が完全に戻らない場合もあり、再発例や重症例では「ステロイド」という免疫を抑える薬が必要になる場合もあります。
 最近は、文明の利器でカビも棲みにくくなっているかもしれませんが、この病気は健康な方にも起こる病気です。ご注意を。

参考文献
1 宮崎泰成、稲瀬直彦. モダンメディア. 59(10):265-271, 2013.

季節の標語シリーズ  

お正月 豆まき
ひな祭り 春
こどもの日 梅雨
腸内 海賊船
月見 ハロウィン
秋 クリスマス